家族で守る
150年超の伝統

株式会社 八巻酒造店
Yamaki-Shuzoten

 

石清水八幡宮に由来する酒銘

 豊かな田園が広がる山梨県北杜市高根町で酒蔵を営む、株式会社八巻酒造店。1862(文久2)年に甲村(当時)の地主だった八巻仲右衛門が創業し、150年以上の歴史を持つ。創業当初からの酒銘「甲斐男山」は、かつて「男山八幡宮」の旧称で呼ばれた石清水八幡宮(京都府八幡市)に由来する。現在、杜氏を務める5代目蔵元の八巻俊司社長と妻、長男の3人で蔵を守る。

 敷地内にある直売店の壁には、大勢の人が神事を行うモノクロ写真や、宮内省(現在の宮内庁)から贈られた賞状などが飾られている。「昭和19年に祖父が宮中行事の新嘗祭に粟を献上した時のものです。実際に献穀する粟はごく少量のようですが、これだけ盛大に神事が行われていました」と八巻社長。地主として栄えた八巻家の歴史を物語る資料だ。

 地下96メートルから汲み上げる井戸水は、八ケ岳の伏流水。軟水で、年間を通じて13℃と温度が一定している。この清らかな水を洗米や仕込み、瓶の洗浄など全ての場面でふんだんに使う。「当たり前に使ってきた水なので、あらためて考えたこともないくらいです。水が酒造りに適していない地域では水を加工して使うという話を聞きますが、うちは昔から杜氏が『これはいい水だ』とよく言っていました。そのままの水を安心して使えるというのはありがたいことですね」と語る。



 

社長杜氏として奮闘

 純米酒の原料米のほとんどは県産「あさひの夢」を使用。米本来の甘味があり、口当たりが良いのと同時に、粘り気が少なくあっさりとしていて、酒米に向いた品種だ。酒造好適米などと比べて安価のため、毎日の晩酌として手に取ってもらいやすい価格で酒を提供できる利点もある。

 仕込みで最も大切にしているのは、毎年同じ酒質になるよう、味のバラつきを最大限抑えることだ。「温度などのデータに忠実に従って造っています。特に麹やもろみの温度は、状態を判断する上で非常に大事です。経験も浅いので、そういう細かい部分を大切にしています」。八巻社長が杜氏に就任したのは2014年。それまで50年近く酒造りを担ってきたベテラン杜氏が高齢で退いたのを機に、社長自らが杜氏を務める。

 「学生時代から、蔵人が休みの時などは作業を手伝っていましたが、4代目だった父自身も造りの経験はありません。今でも、造りの前になると『いい酒が造れるのか』と不安になりますよ」と胸の内を明かす。就任当初は前杜氏ら専門家にバックアップしてもらいながら勉強を重ねた。造りで人手が必要な時は妻も協力し、長男は造りの傍ら東京国税局の研修会や独立行政法人「酒類総合研究所」(広島県広島市)の研修会にも出向き、最新の情報を取り入れて社長杜氏を支えている。

 そして迎えた2019年の東京国税局酒類鑑評会。「甲斐男山 辛口造り」は燗酒部門で優等賞、「甲斐男山 仲」は純米燗酒部門で優等賞とダブル受賞を果たした。杜氏に就任して初めての受賞だ。八巻社長は「本人が一番びっくりしています」と笑顔をのぞかせながら、「前杜氏の50年という長さに比べればまだまだですが、受賞は励みになります。方向性はこれで良かったのかなと安心しました」と手応えを見せる。

「温度帯による変化を楽しんで」

 看板商品の「甲斐男山」は味のしっかりしたタイプの辛口の酒質で、純米酒や吟醸、純米大吟醸など豊富なラインナップをそろえる。また、県産米を100%使用した純米酒「甲斐男山 仲」は、「地元の米と水だけを使った酒を造りたい」との想いから2017年に発売した商品だ。商品名は、蔵の原点である初代蔵元の名にちなんだ。まろやかな飲み口が魅力で、米の味がより強く感じられる逸品。冷やでもぬる燗でもおいしく、おでんや煮込み、焼き鳥など濃い味付けの和食に合う。

 一方、米を極限の35%まで磨いた純米大吟醸「巫女の舞」は、地元商工会と協力して開発した商品。フルーティーですっきりとしたタイプで食前酒にぴったりだ。また、純米酒「お館様」は甲斐の武将・武田信玄にちなんだ商品。コクのある純米酒で、冷ややぬる燗で飲むのもお勧めだ。「最近の若い人たちはあまり燗酒を好まない傾向ですが、日本酒はビールや焼酎などと違い、温度帯によって変化が楽しめるという魅力があります。何より、日本酒は食事の引き立て役です。食事に合わせて冷や、ぬる燗、熱燗など幅広い楽しみ方があることをぜひ多くの人に知ってもらいたいです」。

 家族が一丸となって守る150年超の蔵。「時流に流されず、芯がぶれずに伝統の味を受け継いでいきたいです。うちは小さい蔵ですから、100人お客さんがいたとして100%を目指すのでなく、2%、3%のお客さんに飲んでいただければありがたい。今ついているお客さんたちの期待を裏切らず、満足してもらうこと、そして長く飲んでいただくことを目指してこれからも頑張っていきます」と意気込んでいる。

株式会社 八巻酒造店
住所:山梨県北杜市高根町下黒沢950
TEL:0551-47-3130 FAX:0551-47-6130
URL:http://yamakishuzou.com/