伝統的な製法で醸す生原酒が
人気 カフェも併設

養老酒造株式会社
Yoro-Shuzo

 

和釜での蒸米とこだわりの槽(ふね)搾り

山梨県山梨市は、景勝地である西沢渓谷や日本百名山の甲武信ケ岳など豊かな自然に恵まれた地。養老酒造は、この山梨市で1849(嘉永2)年に創業した酒蔵で、伝統的な製法で地酒を醸し続けている。

 杜氏を務めるのは、6代目蔵主の窪田裕光さん。蔵の名は、「滝の水がお酒になった」という親孝行の孝子伝説が伝わる岐阜・養老の滝にあやかったと伝えられる。現在は山梨市内で唯一の酒蔵だが、「僕が小学校低学年ぐらいまではほかにも駅前や隣の市などに造り酒屋があったんですよ」と教えてくれた。

 仕込み水は、秩父山系を水源とした笛吹川伏流水。やわらかい性質の水で、米の吸水が良く、発酵力があり、酒造りにおいて扱いやすい水だという。



 

 蒸米には伝統的な和釜を使っている。「たまたま機械化していないだけなんですけどね。今の設備は進化しているようですし、スチームでも和釜よりずっとうまく蒸すことができると思いますよ」と前置きした上で、「強いて利点を挙げるなら、和釜の蒸気はカラッとした感じがしますね」と話す。

 搾り方は、槽と呼ばれる大きな木枠の中に醪(もろみ)を入れた酒袋を積んでいく昔ながらの手法。丸2日かけてゆっくりと均一に圧力をかけることで、雑味のない酒に仕上がると言われている。機械搾りに比べて当然、手間や時間は掛かる。「これも蒸米の話と同様、機械の方がもっと上手に搾れるし、早いと思うんです。ただ、搾りに関しては昔ながらのやり方を崩したくないという気持ちが強いですね。うちの生産量が100-200石(一升瓶換算で1000-2000本分)と少量だからこそできるやり方なのかもしれません」。大量生産はできないが、自らが納得のいくこだわりの酒を造りたい。真摯に語る表情から、そんな想いが伝わってくる。

搾りたての生原酒

 養老酒造の商品のほとんどは生原酒だ。「生原酒をメインでやっていきたいんです。理由?やっぱりおいしいんですよ。搾られたそのままの味を飲んでもらいたくて。生原酒だけの蔵があってもいいかなと思っています」

 一番人気は「櫂(かい) 本醸造生原酒」。搾ったままの超辛口で、真冬の仕込みを思わせるような力強さがある。また、純米生原酒「六波(ろくは)」は、「6代目として新たな波を起こしたい」との想いを込めた商品。前述の「櫂」と同じ酒米を使用し、精米歩合も同じだが、櫂のすっきりした味わいに対し、こちらはどっしりとした重さが特徴的だ。

 大吟醸生原酒「567(みろく)」は養老酒造の番地から名付けた商品。精米歩合50%の山田錦を使用し、軽快でフルーティーな味わいが魅力だ。ところで、567をなぜ「みろく」と読むのか。仏教には「弥勒菩薩は56億7千万年後に如来になる」との教えがあり、五六七という数字の並びをそう読むことがある。知人からその逸話を教えられ、このユニークな商品名が生まれたという。

 普通酒「養老」は辛口でキレのある味わいで、熱燗で飲むのがお勧め。一方、「玉笹 純米大吟醸生原酒」はちょっとぜいたくな商品。ビーズのように小さく削った米を手洗いし、低温でゆっくり発酵させた。純米酒らしいまろやかさがあり、飲み応えがしっかりしているので冷酒で飲むのがお勧めだ。

併設のカフェには酒かすメニューも

 敷地内には、築200年の古民家を改装した「蔵元ごはん&カフェ 酒蔵櫂」があり、窪田さんの妻・尚子さんが切り盛りしている。昼は日本酒の試飲やランチ、カフェを提供し、夜はお酒と食事が楽しめる。メニューは鮭のかす漬けや、かす汁、日本酒のアイスクリームなど多彩。週末の夜はさまざまなジャンルのアーティストを招いたライブイベントを行うなど、地元の人気スポットとして知られている。

 酒蔵の見学も歓迎しており、オープンな雰囲気が養老酒造の魅力の1つだ。窪田さんは「うちの蔵のコンセプトは、敷地にあるものを最大限に生かすこと。妻に店をやってもらい、酒造りは僕1人で行っているので、営業面ではどうしてもできることが限られます。だからお客さまに直接ここを訪れてもらうことで、蔵のメッセージもより伝えられるかなと思っています。幸い、それなりの数のお客さまに来ていただいています。今後は、より蔵の中や造りのことに親しんでもらう場を設けたいです」と話す。

 170年以上の歴史を守りつつ、新しいことにも取り組み、日本酒の魅力を発信しながら地域に根付いている養老酒造。「酒造りは古くからの産業であり、國酒という文化があります。おこがましいかもしれませんが、ほかのいろいろな文化を手助けしていかなければならない立場だと思っています。また、お酒の役割には『人間関係の橋渡し』もあります。人と人のつながりや楽しさを共有したり、辛さを半減したりできるのもお酒の力。こうした役割の一端を担う日本酒屋としてこれからも酒造りに励み、蔵を継続していけたらうれしいですね」

養老酒造株式会社
住所:山梨市北567
TEL:0553-22-0047 FAX:0553-22-9039
URL:www.sakagura-kai.jp/